東京地方裁判所 昭和35年(ワ)5696号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔事実と判断〕原告は宅地建物取引の仲介を業とする宅地建物取引業者であるが、従前から知合の間柄である被告から昭和三三年九月ころ被告所有の本件土地建物(大森山王ホテル)の売却方仲介あつせんを依頼せられ、仲介あつせんに奔走した結果、株式会社第一銀行大森支店とその折しようを続け、その交渉は売買単価をいくらに定めるかという点まで進んだが、急に被告がはつきりしない態度を示すようになつたため時日を経過したところ、被告は原告をさしおいて昭和三五年五月二七日第一銀行との間で本件土地を代金一〇七、二七一、五〇〇〇円で売買契約をしたことが判明した。一般に宅地建物取引業者がその営業の範囲内において売買の周せんを委託され、その委託事務の処理として売買の相手方を誘引し、もつて売買成立の機縁を作れば、もしその後に至つて業者に別段の不信行為もないのに、右売買の当事者がこれを排除して直接交渉をはじめ売買を成立せしめた場合にも、売買成立という結果がもたらされている以上、業者は自己が終始取引の完結まで関与したのと同様の報酬額を請求しうる事実たる慣習が行われている。また宅地建物取引業者の報酬は別段の約定がなければ一般に宅地建物取引業法第一七条第一項の規定により東京都知事の定める(東京都告示第九九八号)限度の最高額になるという事実たる慣習があり、これに従つて本件の場合、三、二七八、一四五円である、と主張した。
判決は原告主張の前段の事実たる慣習の存在を認めたが、後段の慣習の存在を否認し、前記告示および原告が取引に関与した程度、取引額等を参酌して報酬額を金二五〇万円と定めた。後段の慣習の存否につき判決はつぎのとおりに説明している。曰く、
「原告は宅地建物取引業者の報酬は別段の約定がなければ、一般に東京都知事の定める(東京都告示第九九八号)限度の最高額による事実たる慣習があり、原、被告はこれによる意思を有したと主張するけれども、右告示自体は業者の受け得べき報酬の額の限度を定めたものであり、右のような事実たる慣習は証人光武福見の証言からすると、たやすくこれを認め難いのみならず、殊に取引額が高額になると、右告示の定める限度の最高額をもつて直ちに報酬額とするというようなことは一般にその通りには貫き難いものであることが窺われるから、本件の場合、たやすく原告主張の事実たる慣習の存在を肯定し、もつてこれに依拠するのは当を得ないと考える。」